◆ インスリン調節法ABC ◆
−製剤の種類と投与法・調節の仕方について−
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インスリン治療がなぜ必要なのか、またインスリンの投与パターンと投与量の調節方法を解説しています。
インスリン製剤の種類も掲載しています。
なおインスリン注入器やインスリン注射手技については、インスリン注射法ABCをご覧下さい
また関連情報として、血糖自己測定−SMBG−も併せてご覧下さい
Introduction−−−インスリン治療の不安、疑問と誤解
一生続ける? 1型糖尿病
生命維持のために不可欠。
2型糖尿病
飲み薬で十分な効果が得られず、より良い血糖コントロールのためにインスリン注射が必要になることもあります。
高血糖によりインスリン分泌が低下しインスリンも効きにくくなってさらに血糖が上昇するという糖毒性の悪循環を解除するために一時的にインスリンを使用し、血糖が良くなったら飲み薬に変えるということも可能です。
インスリンを始めたらやめられないとか重症とか言うことではありません。

痛い? 針は年々細くなっています。
例えばペン型注入器などに使う注射針は、最初の頃27G(0.4mm)、それが今では31G(0.25mm)〜33G(0.2mm)。
細くなって刺す時の抵抗が小さくなり、痛みはより軽くなっています。

操作が煩雑? ペン型注入器の登場により、単位の設定は簡単になりました。
キット製剤なら煩わしいカートリッジ交換も不要です。

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目 次
1.インスリン治療の導入
2.主なインスリン製剤の作用動態−−−超速効型・速効型・中間型・持効型・混合型
3.インスリン投与法の種類−−−頻回注射(基礎−追加補充療法)と従来療法
4.強化インスリン療法におけるインスリン投与量の調節法
インスリン注射法ABC−各種インスリン注入器の使用法と注射の仕方について−

1.インスリン治療の導入
どのような時期にインスリン治療を始めたらよいか、どのような投与法を行うかは、糖尿病のタイプによって異なります。
■ 1型糖尿病
急性発症時は速やかに導入するのは当然、緩徐に発症してくるタイプでもなるべく早期に導入する必要があります。
一時的にインスリン必要量が減ったり不要になる時期(ハネムーン・ピリオド)もありますが、最終的にはインスリン依存状態になります。
厳格なコントロールのためには、基礎分泌と追加分泌を補って、より生理的なインスリン分泌に近づける必要があります(Basal-Bolus injection)。
■ 2型糖尿病
インスリン治療が必要となるのは、
妊娠・授乳時の血糖正常化(食事療法でコントロール不良)
高血糖性昏睡
重症感染症、外傷、外科手術(中等度以上)
重篤な肝障害・腎障害
経口血糖降下剤無効例、副作用で使用できない例
著明な高血糖、ケトーシス、極端なやせなど高度のインスリン不足
などの状況です。インスリンが枯渇しているわけではないので、通常は各食前の速効型か、あるいは1日1-2回の中間型でコントロールできます。
INDEX

2.主なインスリン製剤の作用動態
■ 基礎分泌と追加分泌
下図は健常人のインスリン分泌パターンと主なインスリン製剤の作用動態を図示したものです。
正常のインスリン分泌は、基礎分泌と追加分泌にわけられます。

■ 基礎分泌の補充
食事の前や夜間就寝中等の血糖が低いときでも微量のインスリンが分泌され続けて、肝臓からの糖の放出が過剰にならないようにしています。
基礎分泌の補充には持効型・中間型インスリンが使われます。また持続皮下注入ポンプ(CSII)を使うこともあります。
■ 追加分泌の補充
食事を摂ると血糖の上昇とともにインスリンが速やかに分泌されてきます。インスリンの作用で、ブドウ糖は速やかに肝臓や末梢の組織に取り込まれます。
追加分泌の補充には速効型・超速効型インスリンが使われます。

健常人のインスリン分泌と
インスリン製剤の作用動態
超速効型インスリン
アナログ
15min 0.5-1.5hr 3-5hr
二相性インスリン
アナログ
15min 1-4hr 18-24hr
速効型インスリン 30min 1-3hr 8hr
混合型インスリン 0.5-1.0hr 2-8hr 18-24hr
中間型インスリン 1.0-2.0hr 4-8hr 18-24hr
持効型溶解
インスリンアナログ
1.5hr 24hr

作用発現
時間
最大作用
発現時間
作用持続
時間
インスリンの種類 剤形 商品名 作 用
超速効型インスリン カートリッジ ノボラピッド注ペンフィル
ヒューマログ注カート
速効型よりもさらに速やかに吸収され早く効く。持続時間も短い
持続注入ポンプ(CSII)にも使用する。
キット ノボラピッド注フレックスペン
ヒューマログ注キット
ヒューマログ注ミリオペン
バイアル ノボラピッド注100単位
ヒューマログ注100単位
速効型インスリン カートリッジ ペンフィルR注
ヒューマリンR注カート
早く効くが持続時間が短い。
食後血糖を抑えるために使う(追加分泌補充)。
持続注入ポンプ(CSII)にも使用する。
キット ノボリンR注フレックスペン
イノレットR注
ヒューマリンR注キット
バイアル ノボリンR注100単位
ヒューマリンR注100単位
混合型インスリン
(二相性インスリン)
カートリッジ ペンフィル30R-50R注
ヒューマリン3/7注カート
ノボラピッド30ミックス注ペンフィル*
ヒューマログミックス25・50注カート*
速効型または超速効型インスリンアナログ(*)と中間型を種々の割合で混ぜたもの。
速効型との混合製剤は30〜50%の3種類がある。
超速効型アナログとの二相性製剤は、25・30・50%の3種類がある。
キット ノボリン30R-50R注フレックスペン
イノレット30R-50R注
ヒューマリン3/7注キット
ノボラピッド30ミックス注フレックスペン*
ヒューマログミックス25・50注キット*
ヒューマログミックス25・50注ミリオペン*
バイアル ノボリン30R注100単位
ヒューマリン3/7注100単位
中間型インスリン カートリッジ ペンフィルN注
ヒューマリンN注カート
ヒューマログN注カート
1回の注射でほぼ一日効くが、効き始めるまでに時間がかかる。
基礎分泌の補充に使う。
キット ノボリンN注フレックスペン
イノレットN注
ヒューマリンN注キット
ヒューマログN注ミリオペン
バイアル ノボリンN注100単位
ヒューマリンN注100単位
持効型インスリン カートリッジ ランタス注オプチクリック
ランタス注カート
レベミル注ペンフィル
1回の注射で一日効きピークがないが、効き始めるまでに時間がかかる。
基礎分泌の補充に使う。
キット ランタス注ソロスター
レベミル注フレックスペン
バイアル ランタス注100単位
INDEX

3.インスリン投与法の種類
インスリンの投与法には、一日1回から4回以上まで色々あり、また持続注入ポンプを使うこともあります。
大きく分けると、食事毎の追加補充と一日1-2回の基礎補充を組み合わせた頻回注射(または持続皮下注入ポンプ)で正常のインスリン分泌パターンに近づける基礎−追加補充療法と、1日1〜2回の注射でコントロールする従来法があります。
より厳格な血糖コントロールを目指す強化インスリン療法では、頻回注射に加え血糖自己測定を行い、インスリン投与量を調節していくことが必須となります。
■ 1型糖尿病に対する基礎−追加補充療法
上図のように一日1回の注射では、正常なインスリン分泌パターンを得ることは不可能です。
インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病では、食事の前に速効型や超速効型インスリンを注射して追加分泌に相当する分を補充し、就寝前の持効型や中間型で基礎分泌を補う必要があります。またこのかわりに持続皮下注ポンプを使用することもあります。

追加分泌補充 従来追加分泌補充に使われていた速効型インスリン(Regular insulin)は、速効型といっても効き始めるのに時間がかかり、食後血糖抑制のためには食前30分前の注射、吸収の早い腹部への注射、が必要でした。また持続時間がやや長いため食後血糖を十分抑えようとすると、次の食前血糖が下がりすぎるおそれがあります。
この欠点を解消するために開発されたのが超速効型インスリンアナログです。食直前の注射で食後血糖を下げることができますが、食事と食事の間の時間が長くなったときに超速効型の効果が切れて食前血糖が上昇する可能性がないとはいえません。

基礎分泌補充 中間型インスリン(NPH)や持続型インスリン(Ultralente)の場合はその効果に山ができてしまい、特に深夜低血糖を起こすおそれがあり朝食前血糖が不安定になる傾向がありました。少しでもピークをなくし平均して効かせるために中間型では朝夕2回に分割することがありますが、持効型インスリンアナログや持続注入ポンプ(CSII)によりピークがなく24時間安定して効果を持続させることができるようになりました。

新規インスリン製剤

■ 2型糖尿病に対するインスリン療法
インスリン分泌が残存している2型糖尿病に対しては、各食前の速効型・超速効型で追加分泌を補充するやり方や、1日1〜2回の中間型や混合型、持効型で全体にインスリン血中濃度を嵩上げするようなやり方があります。
ただし厳格なコントロールを必要とする場合、妊娠糖尿病では、上記1型に準じた頻回注射を行うこともあります。
INDEX

4.インスリン投与量の調節法
インスリン投与量の調節のためには、血糖自己測定が欠かせません。
特に強化インスリン療法では、最低1日4回の血糖測定を行い、その結果からインスリン量を調節していきます。
調節の仕方には、いくつかの方法があります。

■ Retrospective−後向き調節
血糖の動きを振りかえって量を決める後ろ向き調節。
通常血糖が比較的安定して時は、2〜3日血糖の動きを見てから高すぎあるいは低すぎる時間帯に効いている責任インスリン量を調節していきます。
インスリン調節アルゴリズム−−−後向き調節の方法
インスリンとその効果を反映する血糖値の関係(責任インスリン)
測定時間 インスリン
朝食前 就寝前中間・持効型
朝食後 朝食前(超)速効型
昼食前
昼食後 昼食前(超)速効型
夕食前
夕食後 夕食前(超)速効型
就寝前
深夜 就寝前中間・持効型
注意しなければならないのは、朝食前血糖値の上昇で、これには暁現象(Dawn phenomenon)とソモジー効果(Somogyi effect)という二通りの機序があります。夜注射した中間型インスリンの作用のピークが3-4時頃に来てその後徐々に効果が減弱すると、これらの機序で血糖が不安定になることが考えられます。
朝の血糖が不安定になるときは、3-4時頃に血糖を測ってみるといいでしょう。

暁現象 夜間の成長ホルモン等の分泌により、明け方3-4時頃からインスリン必要量が増えてきます。
これに対応してインスリンが増えないと、次第に血糖値が上がっていきます。

ソモジー効果
反跳性の高血糖で、低血糖の後に拮抗ホルモンの影響で血糖が上昇する現象です。
明け方3-4時に血糖が下がりすぎてその後血糖が上昇しすぎる場合は、夜食により血糖の下がりすぎを防いだり、就寝前の中間型を減らしたりします。

■ Prospective−前向き調節
インスリン必要量を予測する前向き調節で、スライディング・スケールとも呼ばれます。
測定した血糖値によりその時点で注射するインスリン量を変える。
特にシックデイでインスリン必要量が増えたときはどれくらい増やしたよいのか予測がつかず、また急を要することが多いので、血糖を頻繁に測ってはそれに応じて速効型インスリンを追加していきます。
注 意 いわゆるスライディングスケールと呼ばれる前向き調節は、
血糖が低いとインスリンが少なくなり、その後血糖上昇を来す
血糖が高いとインスリン量が多くなり、その後血糖低下を来す
そのため却って血糖コントロールが不安定になります。
従って通常の場合は前向き調節法を安易に適用しないようにして下さい。
前向き調節(スライディングスケール)の一例
■ カーボカウント法
食物の中でも炭水化物が最も早く血糖上昇を来すことから、食事中の炭水化物量を計算してインスリン量を調節する方法です。
カーボカウント法により食事の自由度は増しますが、ただしカロリーを無視して良いということではなく、食べ過ぎや炭水化物以外の栄養素の過剰摂取による体重増加・肥満には注意する必要があります。
インスリン/カーボ比 炭水化物量(1カーボ)あたりの超速効型インスリン必要量のことです。目安として下記のような500ルールで求められます。
500÷1日総インスリン量
インスリン効果値 食前血糖値が高い時に、補正インスリンを併せて投与します。1単位の超速効型インスリンで下がる血糖値のことで、この目安は下記1800ルールで求められます。
1800÷1日総インスリン量
INDEX

4-1.後向き調節−強化インスリン療法のインスリン調節アルゴリズム
1日4-5回頻回注射のパターンと調節の仕方を示します。
インスリン効果を反映する時間 投与量の修正法
1回1時点のみ変更する
修正量は2-4単位以内
2-3日動きを見てから変更する

早朝空腹時の血糖上昇
Dawn phenomenon
Somogyi effect
(1)朝食前 速効型 or 超速効型 朝食後血糖
昼食前血糖
(2)昼食前 速効型 or 超速効型 昼食後血糖
夕食前血糖
(3)夕食前 速効型 or 超速効型 夕食後血糖
就寝前血糖
(4)就寝前 中間型 朝食前血糖
(5)朝食前 中間型 昼食前血糖
夕食前血糖
(6)朝食前 or 就寝前 持効型 各食前血糖
■ 各食前速効型+就寝前中間型

■ 各食前超速効型+朝・就寝前中間型

■ 各食前速効型+就寝前持効型

■ 各食前超速効型+就寝前持効型
INDEX

4-2.前向き調節−インスリンスライディングスケールの一例
注 意 いわゆるスライディングスケールと呼ばれる前向き調節は、
血糖が低いとインスリンが少なくなり、その後血糖上昇を来す
血糖が高いとインスリン量が多くなり、その後血糖低下を来す
そのため却って血糖コントロールが不安定になります。
またインスリン必要量は個々の症例で異なりますので、ここに示した調節量をそのまま適用することは避けて、必ず主治医に相談するようにしてください。
血糖値 速効型
朝食 昼食 夕食 夜食
0-50mg/dl 4U 3U 3U 0U
51-100mg/dl 6U 5U 5U 0U
101-150mg/dl 7U 6U 6U 0U
151-200mg/dl 8U 7U 7U 0U
201-250mg/dl 9U 8U 8U 2U
251-300mg/dl 10U 9U 9U 3U
301-350mg/dl 11U 10U 10U 4U
351-400mg/dl 12U 11U 11U 5U
≧400 13U 12U 12U 6U
中間型 16U
運動に対して速効型インスリン量を調節
-2U -2U -2U -2U
INDEX

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